リサーチプロジェクト
誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現
本プロジェクトは、内閣府ムーンショット型研究開発制度が掲げるムーンショット目標1「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」の一環として推進される研究開発プロジェクトです。
ホスピタリティと高い倫理観を備えたサイバネティック・アバター(CA)を開発することで、誰もが時間や場所の制約を超えて社会に参加できる「アバター共生社会」の実現を目指します。主婦・主夫や高齢者など、これまで社会活動が難しかった方々も、CAを遠隔操作して多様な仕事や活動に携われるようになります。
このアバター共生社会は、災害や感染症といった社会的な危機に際しても、多様な人材がCAを遠隔で操作し、迅速な問題解決に貢献する大規模遠隔互助社会を築きます。また、一人暮らしや離島など孤立しがちな環境にいる方も、CAを介して遠隔の専門家に見守られ、安心して暮らせる社会を実現します。
研究開発項目[1]存在感・生命感CAの研究開発
人間のようにリアルな存在感や、生物のような生命感を持つCAの開発を進めています。特に、子どもらしい動きをする「移動型CA」や、メンタルケアに特化した「抱擁型CA」など、多様なニーズに応えるCAを開発中です。
CAが操作者の意図や感情を適切に表現するための自動動作生成システムや、操作者が直感的にCAを操れる高臨場感インターフェースも同時に開発しています。これらの技術により、私たちは時間や空間の制約から解放され、CAを通じてこれまでは不可能だった活動を、あらゆる場所と時間で実現できるようになります。
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研究開発課題4:抱擁型生命感CAの研究開発(塩見昌裕)
日常生活で人と物理的に触れ合いながら対話を通じて支援するロボットの実現を目指し、抱擁型CAの研究開発に取り組んでいます。これまでに、高齢者向けの赤ちゃんサイズ、子ども向けの大人サイズ、さらには自己抱擁型など、様々なタイプの抱擁型CAを開発してきました。
現在は、自閉症児を含む子どもたちを対象に、触れ合いを伴う対話によるメンタルサポートの実証実験を進めています。また、抱擁時の接触状況を可視化して操作を直感的にするユーザーインターフェースや、抱擁動作を高精度に認識する技術の開発にも取り組んでいます。これにより、抱擁型CAが利用者の心身に与える影響や、操作者と利用者との間に生まれる新しい関係性について検証を進めていきます。
研究開発項目[5]CA基盤構築の研究開発
多数のCAと操作者をつなぐための情報インフラである「CA基盤(CA-PF)」の研究開発を進めています。この基盤は、多種多様なCAを多くの人々が円滑に利用するための要となるものです。
CAと操作者をつなぐための基盤の階層構造を明確にし、プロトタイプを構築し、実証実験を通じて、機能や性能を検証するとともに、新たな課題を発見します。また、国際標準化団体と連携し、異種サービスやCAの相互運用性を考慮した、拡張性の高い基盤を開発し、国際標準化を進めます。
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研究開発課題1:CA基盤構築及び階層的CA連携と操作者割り当ての研究開発(宮下敬宏)
多数のCAと操作者を結びつけるソフトウェア基盤、CA基盤の研究開発に取り組んでいます。この基盤には、利用者・CAのモニタリング、CAの経験管理、CAの連携制御、そして操作者の割り当て・遠隔操作という4つの基本機能があります。
大阪・関西万博などの大規模実証実験を見据え、多くの利用者が継続的に使いたくなるような全体アーキテクチャを策定し、プロトタイプを構築しました。今後は、CAの種類、操作者の状況、サービスの場所や種類など、様々な利用状況に対応した基盤を段階的に構築し、実証実験を通じて機能の実装を進めていきます。
研究開発課題2:利用者モニタリングと経験管理の研究開発(内海章)
CA基盤の主要な構成要素である利用者・CAモニタリング層とCA経験管理層の研究開発を担当しています。これらの層は、人間の活動に関する貴重な情報を含むモニタリングデータと、操作履歴を統合的に管理することで、CAの制御や機能改善を効率化します。
これまでに、映像・音声通信、CA制御コマンド、センサーデータ送受信といった基本機能を備えたCA基盤プロトタイプを構築し、CA活動の類似性による操作負荷の削減効果などを確認しました。今後は、大規模・多人数での利用に対応するため、通信方式の最適化や、モニタリングデータにアクセスするためのAPIの整備を進め、CA基盤の機能拡張を進めていきます。
研究開発項目[6]生体影響調査
CAや関連デバイスの利用が人体に与える影響の全体像を明らかにします。アンケートや特定の物質測定といった従来の手法ではなく、1万種類以上の生体物質を網羅的に測定する「オミクス解析」を最大限に活用します。これにより、CA利用が身体に与える影響を客観的かつ俯瞰的に捉えることを目指します。
この研究を通じて、CAが人体に作用するメカニズムを解明し、より安全で持続的なCAのデザインや利用方法を確立することを目指します。
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研究開発課題4:CAを用いた生体反応実験(住岡英信)
CAや従来の遠隔対話システム、ゲームなどが生体に与える影響を、代謝物、ホルモン、脳活動、脈拍といった生体信号から調査しています。
これまでに、遠隔対話と対面対話の比較調査や、CAを用いた実証実験における操作者の生体信号計測、疲労感の推定を進めてきました。今後は、これらの調査結果に基づいて、疲労感を軽減する操作インターフェースの開発を進め、生体に優しいCAシステムの実現を目指します。
研究開発課題5:ホルモン検査と健康基準策定(中江文)
痛みの研究を専門とする麻酔科医として、人々の情動を科学的に分析する研究に取り組んでいます。特に、痛みや快情動を客観的に評価するための指標づくりに注力しています。
抱き枕型ロボット「ハグビー」を用いた実験では、ハグビーを使用した方がストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が抑えられることを示しました。今後は、アバターを介した研究を通じて、人に優しいアバターとはどのようなものかを解明し、ものづくりに携わる研究者への貢献を目指します。
研究開発項目[7]実社会実証実験
実証実験を容易に実施するための実証実験基盤を開発・整備しています。複数の企業と連携することで、単独では実現が難しかったCAの実用化に向けた社会実証実験に取り組んでいます。
これまでに、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)エントランスでの受付・案内サービスを含め、本プロジェクトでは90件を超える実証実験を実施しました。
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研究開発課題1:企業連携実証実験基盤の開発・運営と企業コンソーシアム活動支援(宮下敬宏)
複数の企業と連携した実証実験の管理・運営、および企業コンソーシアム活動を推進しています。2021年8月に設立した「アバター共生社会企業コンソーシアム」には、2025年8月末時点で167法人が登録しており、5つの分科会でCAを活用した新事業の検討を進めています。
実証実験で得られた知見は各研究開発項目にフィードバックされ、CA技術のさらなる発展に活かされます。
科学研究費助成事業(科研費)|日本学術振興会